日本画と浮世絵とデッサン
日本画や浮世絵などに比べて、西洋画は影や光、色彩の濃淡を重視しています。立体物には本来、輪郭線は存在しません。あなたの顔を鏡で見ても、顔やあごに線は見えないはずです。輪郭線というのはあくまでも物の表面を、擬似的に二次元的に表現するための手段です。ですから、デッサンでは輪郭線はなくとの絵が成立するのです。それでは輪郭線のある日本画や浮世絵と、デッサンの大きな違いは何でしょう。まず、日本画や浮世絵はそもそも写実的な表現を求めません。そのため陰影表現が重視されず、シンプルな絵になっています。そして輪郭線があるということが大きな特徴です。デッサンがあるがままに、影を用いて立体を表現することであるとするなら、はっきりとしたラインで描かれた浮世絵は、デッサンとは対極にあるといえます。ですが日本の浮世絵は、デッサンを学んできた西洋の画家達に大きな影響を与えることになります。デッサンから出発した、ヨーロッパの絵画は、日本の影響を受けて輪郭線を用いる表現も使うようになります。そして日本では逆に西洋の影響を受けて、遠近法なども取りいれるようになって行きます。明治時代の初期には、浮世絵でありながら輪郭線をほとんど用いない光線画なども生まれ、透視図法を用いた浮世絵も生まれることになります。日本は西洋から、西洋も日本から影響を受けた訳ですから、明確に線引きする事は難しいのですが、もともと日本ではデッサンという考え方が薄いものでした。どちらかといえば、スケッチやクロッキーなど、リアルさよりも表現を重視していたとも考えられます。遠近法の一種に、逆遠近法というものがあります。通常の遠近法では遠くのものは小さく、視点の近くにあるものは大きくなりますが、逆に遠くの物を大きく描くという方法です。この技法は、絵に臨場感や奥行きを持たせながらも、遠くにある対象物を強調することが可能になります。もちろんこうした表現が、デッサン力を上げることには直接繋がらないのですが、少なくともデッサンだけでは表現できないものがある、このことも忘れてはいけない気がします。