パースとデッサン力

 パースの基本として、まずは透視画法について考えてみましょう。正方形をひとつ書き、その正方形の4点のうち、3点を始点にして、同じ方向に、平行にラインを引きます。そのラインの長さを全て同じにして、終点を2本の直線で結ぶと、立方体に見えますよね。もしくは正六角形を描き、そのうち3つの頂点を正六角形の中心で結ぶとこちらもやはり立方体に見えます。このようなパースを平行投影法と呼びます。浮世絵や建築パースなどで良く用いられる方法です。ただ、立方体には見えるのですが、なんだか不安定に見える、不自然に見えるという人もいるのではないでしょうか。なぜそう見えるのかというと、理由は簡単、この図形は消失点を用いずに描かれているからです。消失点をはるか遠くに設定すればもちろん絵はどんどん平行投影法に近付きますが、そもそもそんなに遠くの物は人間目でみることはできませんから、こんな風に見えるわけはないと人間は感じるのです。そして、この立方体に、ひとつの消失点を用いて描くことを一点透視法といいます。この場合は、斜めになるラインが、ひとつの点に集中しているようになります。2点透視法の場合は、キャンバスの横方向に対して平行な線はなく、斜めのラインはどちらか片方の消失点に向かっています。さらに3点透視法の場合は、キャンバスに対して縦方向に垂直なラインもなくなり、上か下、どちらかにもうひとつ消失点を使うことになります。それでは消失点とはそもそも何なのか、というと、見る側の視線でもあります。1点透視法と2点透視法では、消失点はその画を見る人間の目線と同じ高さにあることになります。この視点の高さを水平線といいます。通常の水平線は、地球が球体である訳ですから本来は直線ではありません。ですが透視画法ではあくまでも平行なものとして扱うのです。そして人間の視点が上を向いた場合、つまりは上を見上げた場合は、3点透視法の第3の消失点は水平線の上に存在し、上から下を見下ろしているのであれば、水平線の下に、第3の消失点が存在することになります。この透視画法は、建物などの人工物をリアルに表現するのにとても適していて、単純なビル郡などを描くのであれば、技法さえ習得すれば比較的誰でも描くことが可能な技術です。ただし、こうした透視画法はあくまでも技術です。例えば写真などから消失点を求めた場合、3点どころか5つも6つも消失点があることもあります。ですがもちろん、その写真は不自然な画像ではないのです。ただ、透視画法はあくまでも技術であって、学び理解すれば誰でも修得できるもの。身に着けておけば武器になることは間違いありません。
 遠近法は、ルネッサンス時代になると、デッサンは絵画だけでなく、彫刻や建築の設計図として用いられるようになります。実際に透視画法が確立したのはもう少し先のことなのですが、リアルな絵を描く貯めの方法として、遠近法が重要になって来るのです。ただ、よく誤解されるのですが、透視画法はイコールパースではありません。パースは英語ではperspective、日本お得意の略語ですね。パースペクティブは主に遠近法や透視画法の事を指します。透視画法だけがパースではないのです。例えば空気遠近法は、近くにあるものをくっきりと描き、遠くにあるものを霞ませるというのが基本です。水墨画などでは、手前にあるものは濃い墨を用いて、後ろにあるものは薄い墨を使って描いたりします。消失遠近法は、手前にあるものをはっきりと描き、後ろにあるものをぼかすという方法です。人間の目は、視力によっても異なりますが、遠くにあるものは、はっきりとは見えませんよね。透視画法は決して完璧で完全な手法ではありません。消失点を用いて描かれた図は、画面手前側、つまり視点に近い部分は必ずゆがみが生じます。パース状は3点の合計が90度になる立方体であっても、画面手前側にあるものは見た目が立方体には見えなくなるのです。実際に描いてみないとなかなか理解しにくいのですが、カメラを想像すると良く分かります。望遠レンズで取った写真は、それほどゆがみはありません。ですが魚眼レンズなどを用いて、パノラマ画像を得ようとすると人間の目から見ると明らかに直線であるものがゆがんで見えます。ゆがんで見えないようにするためには、視野を狭めるしかないのです。ですから透視画法上、「正しい絵」が、決して優れている絵になるとは限らないのです。完全な方法ではない、それを踏まえた上で透視画法や遠近法を学んでいく事は、デッサン力を上げる上で大きく役立っていくと思います。

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