数学とデッサン

 万能の天才と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチ。絵画に留まらず、彫刻や建築、そして科学と、彼は幅広い分野で「天才」でした。その彼が残した言葉に、「私の芸術を真に理解できるのは数学者だけである」という一文があります。また、アルブレヒト・デューラーは、画家であり、版画家であり、そして数学者でもありました。
 数学の問題が解けなくても、絵を描くのに不自由はしない、そう感じている人も多いでしょうが、デッサンと数学には関係性があるのです。幾何学を学んだことのある人には説明するまでもありませんが、図形というのは数学的なアプローチなくしては存在しません。例えば透視図法を深く理解しようとするなら、幾何学まで踏み込んで考える事が必要になります。図形とは、定義であり理論であり、約束事なのです。
 黄金比をご存知でしょうか。ユークリッド原論の中でも、外中比の定義として記されています。良く目にするA4サイズのコピー用紙、これは黄金比でできています。このコピー用紙を、辺が長い方を2分割するとA5サイズの用紙になります。このコピー用紙など、私達が良く目にする用紙サイズは、縦:横=1:√2の比率でできています。この黄金比は昔から美しい比率とされてきました。美しい、と感じることはなくても、なんとなく安定感のある比率だと感じる人も多いのではないでしょうか。ジャック=ルイ・ダヴィッドの「レカミエ像」をご存知でしょうか。彼はナポレオンの肖像画や、馬にまたがるナポレオンの絵などで有名な人です。このレカミエ像は、ギリシャ風の衣装をまとったレミカエが黄金比になるように構成されています。絵に安定感を産むひとつの方法が、黄金比を活用するものだったのです。黄金比に限らず、幾何学的に作られた構図を元に描かれた絵は、安定感を産みます。レオナルド・ダ・ヴィンチが実際に意図して描いたのかどうかは分かりませんが、数少ない彼の絵画は幾何学的図形に沿った構図になっています。絵を描くだけが、絵の勉強ではありません。たまには違う視点で、あえて言うなら数学的な視点で自分の描くデッサンを見てみませんか。新しい発見があるでしょうし、構図の作り方にも必ず力になっていくはずです。

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